8日目/スバ→ナンディ

【現在地】フィジー・ナンディ(Tanoa Skylodge Hotel)/気温26℃


【訪問した国の数】3カ国


【フライト】計5回


 9時半に起床し、10時にチェックアウト。ツーリストバスが迎えに来るのは15時半だから、それまでは再び市内を散策しよう。南京錠でしっかりロックしたバックパックをフロントに預けていざ出発。このとき一つのミスを犯していたが、当時は不安すら抱いていなかった。


 10時、坂を下ってビクトリア・パレード(メインストリート)に入りかけたとき左側に看板が見えた。博物館があるらしい。学割料金5FJD(約230円)を払って建物に入ると、双胴船やカヌーが目の前に現れた。さらに奥を覗いたところ、フィジーの歴史や文化に関わる資料も数多く展示されていた。なかなか濃い内容だが、むしろ自分は陳列ケースに貼付されたJICAのシールのほうに注目してしまった。中国はこういう援助をしないよな、と思った。


 11時、メインストリートに出たが昨日と同じく人や車が非常に少なかった。太平洋島嶼国を代表する都市にこの寂寥感は似合わない。マーケットやバスターミナルまで行くと少しは騒々しくなったが、それでもエリア全体が落ち着いている印象だ。日付変更線が西にズレてもう一度日曜日が訪れたのか。


 12時、やっと謎が解けた。誰もいない銀行の玄関に貼られた紙に"the Prophet Mohammed's Birthday Public Holiday"という文言が書かれていたのだ。ムスリムの空気はまったく感じないけれど、今日は国民の祝日らしい。道理で行きたかったレストランを含む大半の店が休んでいるわけだ。12時半、たまたま営業していた中華料理屋で昼食。不足していた白米と野菜を摂った。


 1時間ほど食事を楽しみ、会計を終えたところで思い出した。そろそろ24時間営業のATMからフィジードルを引き出したいが、国際キャッシュカードはバックパックのなかにある。いったんホテルに帰ってカードを持ち出し、さっさと現金を確保しよう。そのまま宿に引き返し、荷物置き場から回収したバックパックを開けようとして気付いた。南京錠のカギを失った。財布やバックパックのポケットなど、思い当たりのある場所はくまなく調べたが見当たらない。唯一分かるのはスペアキーが貴重品ケースに入っていることだけだ。決断した。カッターナイフで一部を破いて貴重品ケースを取り出そう。


 スバの中心地を再訪し、MHCCなるショッピングモールの文房具売り場でカッターナイフを購入。ホテルには15時に着いた。バックパックを足元に置いてさっそく作業に移ろうとしたまさにそのとき、ナンディ行きのツーリストバスが到着した。予定より30分も早く来てしまった。ちょっとでも繁華街に長居していたらどうなったことかと思いつつバスに乗り込む。開封は中止だ。


 バスはホテルを発ったあとHoliday Inn Suvaで停車し、インド系やメラネシア系、中国人観光客を乗せて15時半に発車した。乗車率は6割ほど。今回はマイクロバスではなく大型バスだから利用人数は往路とそう変わらないと思う。冷房がやや強いのが気になるが、乗り心地は快適だ。途中、パシフィック・ハーバー地区で数名の乗客を下ろしつつバスはナンディに向かった。


 だが17時半、事態は急変する。The Warwick Fiji Resort & Spaというコーラル・コースト地区のホテルに入り、運転手がエンジンを切ったかと思いきや「エンジン故障のためここで停止します。迎えが来るまでお待ちください」と話し出したのだ!どよめく車内。近くにいた中国人はアイヤと呟いた。自分は明日もヒマだからいいけれど、フライトなどを控えている人はどうなるんだろう。しばらく外で待機していると、1台のマイクロバスが敷地に進入してきた。ただちに現れたことから、故障したバスの後続車両と思われる。乗務員のお姉さんはリストを参照しつつ、何人かの乗客をそちらに案内した。空港へ行く人をひとまず先に行かせるつもりらしい。中国人たちを乗せたマイクロバスはそのまま走り去った。引き続き放置されたインド系やメラネシア系は困惑している。自分も同様だ。小雨も降り出し、万事休す。


 18時半、やっと代車が駆け付けた。バスではなく、小さな「貨車」が後方に取り付けられたワゴンだった。6名ほどの乗客、運転手と乗務員のお姉さん、そして自分が次々と乗り込む。なお、自分のシートは助手席。隣には乗務員のお姉さんがいて少々落ち着かないけれど、これでやっとナンディに行ける。ぎゅうぎゅう詰めのワゴンは静かに走り出した。


 車内からは色々なものが見えた。海、草原、夕陽。フィジーの自然は素晴らしいと実感する。だが、いちばん印象に残った光景はイスラム教徒たちの行進だった。大勢のムスリムとその車が警察に先導されながらゆっくりと幹線道路を進む。もちろん、イスラムと聞いて皆が想像するようなあの歌も流れていた。スバの銀行で見たあの貼り紙とこの隊列が、ぴったりと合致する。フィジーの文化は複合的だ。


 20時半、Tanoa Skylodge Hotelで車を降りた。昨日まで宿泊していたホテルだが、設備とロケーションが気に入ったからまた使うことにした。今回はネット予約ではないため少々値段がアップしたが、案内された部屋はそのぶん立派だった。バックパックを開く作業も成功し、波乱続きの一日が漸く終了した。

 整理すると、こうなる。(1)ムハンマド生誕祭のためスバにある大半の店は行きたかったレストランを含めて一様に休業。(2)スバからナンディに向かうバスが途中で壊れて雨が降るなか待機。(3)バックパックに取り付けた南京錠のカギを紛失しカッターナイフで開封。今年のバレンタインデーは事件の連続だった。


【参考】1FJD(フィジードル)約46円